どうしてマルウェアを見逃すのか?3つの主要な要因と対策
近年、マルウェアによるサイバー攻撃の脅威が増大しており、ニュースでも頻繁に取り上げられるようになっています。企業や個人がセキュリティソフトや対策製品を導入しているにもかかわらず、なぜマルウェア感染が発生するのでしょうか?今回は、「シグネチャーでの検知」「セーフモードの悪用」「LOL(Living Off the Land)攻撃」という3つの観点から、マルウェアが検知を逃れる理由を解説し、それに対する対策についても考察します。
1. シグネチャーで検知する観点
セキュリティソフトの多くは、マルウェアの「シグネチャー」と呼ばれる特徴的なパターンを元に脅威を検知します。しかし、この方式にはいくつかの課題があります。
- ゼロデイ攻撃
シグネチャーは既知の脅威に対応するためのものです。そのため、新たに発見されていないゼロデイ攻撃には対応できません。攻撃者はこの隙を狙い、まだ対策が講じられていない脆弱性を悪用します。 - ポリモーフィズムとメタモーフィズム
攻撃者は、マルウェアが感染するたびにコードを変化させる「ポリモーフィズム」や「メタモーフィズム」を用います。これにより、同じマルウェアであっても、異なるシグネチャーを持つため、従来の検知方法では発見が難しくなります。 - クラウド依存の課題
シグネチャーデータは頻繁に更新されるため、セキュリティソフトはクラウド経由で最新情報を取得します。しかし、オフラインの環境では更新ができず、古いシグネチャーのままでは新しい脅威を見逃す可能性が高まります。
2. セーフモードの悪用による攻撃
セーフモードは、WindowsなどのOSが最低限の機能で起動するモードで、システムのトラブルシューティングに利用されます。攻撃者はこのモードを悪用して、セキュリティ対策を無効化することが可能です。
- セキュリティソフトの無力化
多くのセキュリティソフトは通常モードでしか機能しないため、セーフモードでの監視が手薄になります。このため、攻撃者はセーフモードを使ってマルウェアをインストールし、システムを改ざんすることが可能です。 - 修復作業の妨害
マルウェアがセーフモードで起動し、感染を拡大すると、通常のウイルス駆除ツールでは対応が難しくなります。セーフモードにおける活動をブロックする機能がないと、攻撃者に有利な状況が続いてしまいます。
3. LOL(Living Off the Land)攻撃の巧妙さ
LOL攻撃とは、OSや既存の合法的なツールを悪用して行う攻撃手法のことです。この方法では、不正なプログラムではなく、Windowsの標準機能などを用いるため、セキュリティソフトに異常と判断されにくくなります。
- 正規ツールの悪用
攻撃者は「PowerShell」や「WMI(Windows Management Instrumentation)」などの正規の管理ツールを利用して、不正な操作を行います。これにより、セキュリティ製品が通常のシステム運用と区別できないまま、攻撃が進行します。 - ファイルレスマルウェアの脅威
ファイルレスマルウェアは、ディスクに保存されることなくメモリ上で活動するため、従来のウイルススキャンでは検出されません。このような攻撃は、エンドポイント保護の盲点を突くものです。
対策と防御のためのポイント
これらの高度な攻撃手法に対抗するためには、従来型のセキュリティ対策に加え、以下のような取り組みが必要です。
- 振る舞い検知の導入
シグネチャー型の検知では対応が難しいゼロデイ攻撃やLOL攻撃に対して、異常な振る舞いを検出する技術を取り入れることが有効です。 - セーフモードへのアクセス制限
セーフモードでの起動を管理者のみに制限し、不正なアクセスを防ぐことで、攻撃者がこのモードを悪用することを防ぎます。 - EDR(Endpoint Detection and Response)の活用
ファイルレスマルウェアのようにメモリ上で活動する脅威に対応するため、エンドポイントでの異常な動きを監視するEDRを導入することが効果的です。 - 従業員教育と啓発活動
PowerShellやWMIなどの正規ツールが悪用されるケースでは、従業員がそのリスクを認識し、適切に対処できるように教育することが重要です。
まとめ
セキュリティ対策を導入していても、マルウェアが見逃されるのは、攻撃者が高度な技術や既存のシステムの隙を突くためです。
シグネチャー検知の限界、セーフモードの悪用、LOL攻撃の巧妙さを理解し、それぞれに対する具体的な対策を講じることが求められます。
サイバー攻撃は年々進化しており、従来のセキュリティだけでは十分ではありません。振る舞い検知やEDRのような最新技術の導入、セキュリティ教育の徹底を通じて、組織全体でリスクを低減する取り組みが求められます。最終的には、常に最新の脅威に備え、柔軟に対応できる体制を整えることが、サイバー攻撃の被害を最小限に抑える鍵となるでしょう。